2022.12.02
2022年ダブルイレブンを振り返り、商戦のハイライトまとめ
今年も中国EC業界において最大級のセールイベントである「ダブルイレブン(W11)」が行われました。今年で14回目の開催となったW11ですが、どのような結果となったのでしょうか。Tmall、京東(JD.com)、淘宝網(Taobao)、抖音(Douyin)などのチャネルを取り上げ、人気のあった商材カテゴリーや今年の商戦の特徴などをレポートします。
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今年のW11イベントの結果は
2022年の商戦は、昨年に引き続き異例な事態が多くみられました。まず、W11の総GMV(流通取引総額)についてです。毎年記録を更新し続けていたW11ですが、今年はGMVの発表が行われませんでした。これまではリアルタイムで発表されていたものが、婉曲的なレポートによる公表のみとなりました。その他にも、これまで継続的に行われていたW11の宣伝イベントが開催されない、これまで長期間設けられていた先行販売期間が短縮されるなど、様々な部分が見直され、変更されました。
2022年W11における4つの変化
今年のW11は、様々な変化がありました。本項では、大きな変化を4つのトピックに分けてご紹介します。
1. コンテンツ系プラットフォームのEC化が進む
コンテンツ配信が中心だったプラットフォームも、続々とW11へ参加しています。動画サービスプラットフォーム「bilibili」は、ライブECとしてW11へ初参加しました。また、ショート動画が楽しめるソーシャルECプラットフォームである中国版Tiktok「抖音(Douyin)」は、「货架电商(検索eコマース※)」を強化し、クーポン・割引などの提供で消費者を誘致しました。
※検索eコマース…消費者が欲しい商品を自ら検索し、購入するタイプのeコマースを指す。
2. 先行販売期間の短縮化
各プラットフォームは、今年の先行販売期間を短く設定した代わりに、プロモーションを販売者の誘致の為に活用しました。また、これまでのW11の先行販売期間は、非常に長く、さらに支払いを1ヶ月後に設定できたため、消費者たちが荷物の到着を待てずに注文をキャンセルするなどの問題がありました。今回の先行販売の短縮によって、買い物におけるユーザーの体験が向上しました。
3. 様々なプラットフォームとの連携が可能に
ブランド達は、微博(weibo)や小紅書(RED)などのSNSを活用し、ECプラットフォームへの集客を行っていました。また、ECサイトで情報発信ができる無料チャネルを活用し、宣伝する事も可能です。様々なツールを活用し、様々な場所で宣伝をしていくマーケティングモデルが形成されました。
4. 多プラットフォームとの連動
ブランドやインフルエンサーたちは、大人気KOL「李佳琦(Austin)」のバラエティ番組に登場し、W11の為の露出を行っていました。抖音で活躍するインフルエンサーがtaobaoライブに出演するなどの動きもあり、今後はこのような「インフルエンサーやMCN会社※がプラットフォームを越えてライブコマースを行う」事がトレンドになっていくでしょう。
※MCN会社…Multi Channel Network会社の事。インフルエンサーや動画クリエイターの芸能事務所のようなもの。
各プラットフォームの動向
【Tmall】
今年11月11日独身の日当日と、イベント全体通しての売上高についての発表がありませんでした。しかし、公式データによると、11月10日までの先行販売期間中における取扱高が、148カテゴリーにおいて100%以上伸びたことが発表されています。
・Tmall カテゴリー別動向
中国消費者は、車や花、勉強関連のサービスをオンラインで購入するようになってきているようです。新ライフスタイルカテゴリーにおける車の試乗サービスの売上高が前年同期比22倍以上、花類が230%、オンライン教育サービスが120%と伸びています。また、近年人気が高まっているアウトドア※や、アート収集にチャレンジする消費者も多く、新興スポーツ※が100%、トレンドアート類※が670%売上増加しました。
※近年中国でアウトドア・アクティビティの人気が拡大している。
【関連記事】中国で拡大する”アウトドアブーム”について
※新興スポーツ…スケートボードやフリスビーなど
※トレンドアート…ブラインドボックスやアートフィギュア、ガンプラなど
一部の日用品業界では、「ダークホース」も出現しました。例えば家電業界では、ホームエレベーターが500%以上、エアコンセットが280%以上成長しました。アパレル業界では、コスプレ衣装や中国式の古風な衣装が800%増加、男性用のエスニック衣装は700%以上増加しています。コスメティック業界では、トラベル用のコスメセットが人気で、270%増加しました。また、競争の激しいマタニティ業界では、子ども用ポロシャツの人気に火が着き、160%以上の増加となっています。レッドオーシャンと呼ばれる中に、突如としてブルーオーシャンが発生したと言われています。
同時に、アルコールカテゴリーの中国老舗ブランドが好調に売り上げていました。泸州老窖、五粮液、剑南春、凤凰牌、杏花村、沱牌、牛栏山、回力などの44 の中国老舗ブランドの売上高は、1,000 万元(日本円で約1億9,000万円)を超えました。
・Tmall W11のハイライト
TmallのW11は、10月31日午後8時より開始され、102のブランドの取引額がわずか1時間で1億元(日本円で約19億円)を超えました。また、taobaoライブの1回の視聴量は、前年比600%増、ウエストインフルエンサーの取引高は前年比250%増となりました。
【京東】
・京東 W11のハイライト
京東では、10月31日午後8時から11月2日午後24時の間に、5.5億点以上の商品を販売したことが発表されています。全体のカテゴリーーにおける1分間の取引額は、10億元(約193億円)を突破、28時間で1,500万個以上の家電を販売し、全体の売上高は昨年11月11日全日の売上高を超えているようです。5万~7万近くの中小規模ブランドの売上高は、前年比100%増加となりました。
・京東 注目された商材
公式データによると、11月10日午後8時から始まったセールでは、開始わずか1分でAppleの売上高が10億元(約193億円)を突破しました。また、栄養・健康ブランドのSwisseとTomson Healthも共に10万個を超える売上を記録しました。他にも、以下カテゴリーが開始直後から好調に売り上げていきました。
・家電
開始5分で100万台以上を販売。特にXRメガネ※の売上は、前年比3倍以上となりました。
・美容系国際ブランド
SK-II、エスティローダー、キールズ、ロレアル、ロクシタンなど87の主要国際美容ブランドが前年比200%超となりました。
・サービス関連
タイヤ交換などを行う、自動車タイヤ部門のサービス受注が188%増となりました。
※XRメガネ…XR(クロスリアリティ)メガネ。装着者の眼鏡に仮想画面を表示させる。現実世界に重ねて仮想画面が表示でき、ハンズフリーで映像やネットを楽しめる。
【抖音(Douyin】
中国版Tiktokである抖音(Douyin)のEコマースで行われたW11に参加した店舗は、前年比85%増加しており、7,667個のライブコマースは100万元(約2,000万円)を超える売り上げを達成しました。実施されたライブコマースの合計配信時間は、3,821万時間にものぼります。抖音では、中国ブランドが好調に売り上げており、抖音shopの「W11人気商品」トップ100にランクインした商品の90%以上が中国国産品でした。
・抖音 W11のハイライト
10月31日0時、他のプラットフォームのW11イベント開催に合わせ、「抖音W11グッズフェスティバル」を開始しました。グッズフェスティバルの決済単価は、1時間で前年比271.1%増加となりました。11月1日24時までに、抖音shopの取扱高は前年比629.9%増加、商品取扱高は前年比524.1%となりました。
ライブコマース動向
W11の先行販売が始まった10月24日の夜、Taobaoライブで羅永浩と李佳琦が久しぶりのライブ出演を果たしました。W11以前から話題となっていた彼らのライブはどのような結果となったのでしょうか。
2022年W11直前レポートはこちら
・注目の羅永浩と李佳琦のライブコマース
10月24日羅永浩(Luo Yonghao)の淘宝網デビューライブは、6時間連続放送となり、デビューライブとしては多い2,600万人が視聴しました。結果は253万人のファン増加となり、推定売上は2億1,000万元(約40億4,000万円)となりました。同日に行われた李佳琦のライブコマースは、テーマが「超级美妆节(スーパーコスメ商品祭)」となっており、紹介した商品292SKUのほとんどが美容・スキンケアのものでした。彼のライブには4億5,000万人もの視聴者があつまり、李佳琦としても初の4億人ライブとなりました。
・taobaoがインフルエンサーによるコンテンツをコアとしたライブコマースに注力
羅永浩と李佳琦の他にも、taobaoは、芸能人の張柏芝(Cecilia Cheung)、劉畊宏の妻の王婉霏(Vivi)、知識コマースで注目を浴びている新東方の俞敏洪(Yu Minhong)などがtaobaoライブに登場、デビューを果たしました。アリババのデータによると、10月24日夜の先行販売開始から4時間で、130個のライブが1,000万元(約1億9,000万円)を突破、ウエストインフルエンサー※による売り上げは、前年比365%増加しました。さらに新規インフルエンサーは、前年比684%、ライブ会社の数も165%増となっており、ライブコマースの影響力は未だ衰えていないようです。
※ウエストインフルエンサー…KOLと無名のインフルエンサーの中間に位置する人気を持つ、または人気が高くもなく低くもないインフルエンサーを指す。
・ウエストインフルエンサーの成長
これまで単純な物販に近いライブコマースを行っていたtaobaoですが、今年からコンテンツを中心としたライブコマースに力を入れています。現在、50万人近くの優秀な抖音インフルエンサーや、「无忧传媒」、「遥望网络」、「交个朋友」といったMCNライブ放送局※がtaobaoに進出しており、taobaoライブのウエストインフルエンサーの支えになっています。公開データによると、10月31日20時から1時間で、ウエストインフルエンサーの取引額は前年比250%増加、全体の単回視聴料は前年比600%以上となりました。
※MCNライブ放送局…MCN会社のライブ部門
2022年W11のマーケティングポイント
・複雑な購入プロセスが改善された
前回のW11で消費者達から上がっていた「複雑な割引キャンペーン」や「購入手続き」が、今年のW11では改善されていました。昨年は、様々な割引があり、お得に買い物をしたい消費者達は、様々な計算を行ったり、サービスを受ける為に購入リンクを友人へシェアしたりといった事に疲弊していました。今年はそれらが簡素化され、ほとんどが下記の様なシンプルな割引表示となっていました。
Tmall:300元以上50元引き
Taobao:200元以上30元引き
京東:299元以上50元引き または 1,000元以上100元引き
抖音:200元以上30元引き
・ワンクリック価格保護機能が登場
Tmallと京東では、「ワンクリック価格保護」機能が導入され、よりお得に買い物できる様になっていました。この機能は、一番安いタイミングで商品が購入出来る機能です。W11で購入した商品が急に値下げされた場合や、値引き価格が変更され、消費者が高く買ってしまった場合に、11月26日までにワンクリック価格保護をクリックする事で、価格差を補うことができます。(京東では、5億点以上の商品に対し、高額で購入した際、30日間で発生した価格差が補われる。)
・会員制度経済が注目された
2016年からTmallに登場した会員制度による経済効果が注目されています。発表されたデータによると、11月1日82のブランドの会員による売上高は1億元(約19億円)以上、2,700ブランドでは、売上の50%が会員によるものでした。これらの数字は、消費ブランドが会員制度を活用する事で、十分な収益を維持できることを意味しています。ブランドにとっては、消費意欲があり、ブランドの為にお金を払う意思を持つ消費者を確保できる為、会員制度からもたらされるメリットが大きいと注目されました。
まとめ
中国の中小企業の多くは14年以上存続することが出来ないと言われており、今年14回目を迎えたW11も、変曲点を迎えています。中国消費者たちの間でも、「売り上げが減少したのではないか」「もはや必要としない」などの議論が発生しており、否定的な意見も少なくないようです。
一方で、ライブコマースの新しい新潮や会員制度経済への注目など、中国マーケティングは発展し続けています。市場や消費者の動向を見極め、適切なチャネル・タイミングで、ターゲットに響くマーケティングを行っていくことが、今後の中国市場では重要です。
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